BL思考の種

BLlogiaの管理人がだらだら書くBL小説やBL漫画のレビュー

『宿敵ーライバルー』なぜ男同士に萌えるのか

作家論は勉強したことがなく、作品論しか手持ちのツールがありません。それはちょっと置いておいて、『宿敵ーライバルー』を読みながら、そうそう、こういう段階で萌えるんだよ、と膝を打って納得した作品。

宿敵―ライバル― (ガッシュ文庫)

宿敵―ライバル― (ガッシュ文庫)

伊勢谷と家入は、学生時代のロボットコンテストからの宿命のライバル。
美人な伊勢谷は気が強く、傲岸不遜な家入に対抗心を燃やしていた。
しかし、ある事件から家入と体を重ねてしまう――。
大会社の御曹司である家入は卒業後海外へ留学したため、その後会うことはなかったが、
あれから10年、地元企業に勤める伊勢谷の前に、家入は現れた。
「おまえのために、この会社を買収した」
受けの伊勢谷は「努力・友情・勝利」を体現したようなチームを組んでのバトルをします。特に、自分も才能があるが、友人たちの才能も生かしたチームプレイを得意とするタイプ。
対して家入は金持ちで恵まれた環境にいるとはいえ、自分の才能だけを頼りにソロプレイで猛進する孤高の天才タイプ。
そんな2人が高校のロボコン的な大会で何度も対決して、お互いをライバルとして意識していく。
ここまでは、普通の少年漫画にもありそうな展開です。普通の少年漫画というのがまた問題で、男だらけのチームでCPができあがっても美味しいのですが、ライバルという唯一無二の存在として押し出されたら、観客席に彼女が居ようが、彼女がマネージャー役をしてようが、弁当の付け合わせのパセリかミニトマトでしかない。どっちも苦手ですが。弁当のメインになってる鳥のから揚げを食べながら、しょんぼりしたミニトマトやパセリを見ながら、何で入ってるんだとしみったれた気分になる。それは存在を認識してるまともな方で、メインの鳥のから揚げと白米にしか興味がありません。パセリもミニトマトも弁当にありがちですが、それらがあるからその弁当を選ぶ理由にはならないわけです。自分が作る料理に使うならまだしも、基本的にどうでもいい。
そんなしょんぼりとしたどうでもいいヒロインを忘れて、男同士の熱い世界にだけひたってしまうんです。

アニメは途中からながら見をしていましたが、最近MXで放映されているので、黄瀬くんのポジションを確認した。本放送の時に、何で彼は観客席で解説をしているのか、すごく気になっていたのですが、次第に『永遠の夫』に見えてきた。常に寝取られる永遠の夫。これからは観客席をNTR席と呼ぼう。
男同士でも、最強のライバルポジションにつくか、絶対的な相棒の地位におさまらないとNTRみたいになるんだなぁ。

永遠の夫 (新潮文庫 (ト-1-6))

永遠の夫 (新潮文庫 (ト-1-6))


伊勢谷はゲイだと自覚していますが、これは商業BLだから。バイでもヘテロでも女はいらないでしょ、家入との世界があれば、一生安泰でしょ。
「仕事と私、どっちが大事なの?」
この台詞が言える女は好きだ。こいつ、BL好き的な意味で腐ってやがる!
どんなに女をがんばっても、男の職場には、恋人や妻よりも大切な彼氏が居るということを見抜いているのではないかと伝統的なセリフにセジウィックがホモ・ソーシャルを理論化するよりも早くに、それに似た何かを感じ取っていたのかもしれない。
「仕事が恋人」=「仕事場に人生のすべてを捧げても構わない男が居る」ように彼女には世界が見えているのではないか。
BL好きの妄想乙で終わってしまいますが、そんなタイプにマウンティングの道具のように扱われる仕事場以外の女、それ以外のすべての何かになるしかない物悲しさや、入れなさへの怒りみたいのは確かに存在する。
なので、恋愛も何もかも男たちの物語で最も熱くなる場だけで済ませてくれ、こっち見るな、くっついてくれたらそれで安全。

高校生編がアニメなどで放映されそうな少年漫画に薄味のBL風味をつけたものなら、後半の企業の買収からのロボコン勝負、そして愛だとか恋だとかが絡んでくるのは、「少年時代が成長して結婚するネタを二次創作でやってみた」と見事にpixivあたりにありそうなネタで小説として作り上げていくのは見事。
私は何かで二次創作をするほどではありませんが、グーグル先生にもしもしこのCPありませんかとたずねて読んで楽しむこともありますが、BL好きがだいたいそんな気分になる要素と過程がかなり理論的に積み上げられているBLの論文みたいに読むことができるBL小説。傑作です。